スウェーデンは、世界有数の高福祉国家として知られていますが、その背景には1930年代の深刻な人口危機があります。当時、スウェーデンの出生率は世界最低水準にまで落ち込み、国民の約半数が「国民がいなくなる」と危機感を抱いていました。しかし、この人口危機を乗り越えるために、スウェーデンは国のあり方を大きく変えることにしました。その結果、スウェーデンは少子化に対応する先進的な社会保障制度や家族政策を築き上げることに成功しました。この記事では、スウェーデンがどのように人口危機の教訓を生かしたのか、そしてその教訓が今日の日本にも参考になるのかを考えてみたいと思います。
人口危機から高福祉国家へ
スウェーデンの人口危機は、大恐慌や第一次世界大戦の影響で経済が停滞し、女性の社会進出や避妊技術の普及などで出生率が低下したことが原因です。1935年には出生率は1.7まで落ち込み、死亡率も上回りました。このままでは国力が衰えていくという危機感から、政府や学者、メディアなどが人口問題に関心を持ち始めました。
しかし、当時の人口問題に対する世論は二分していました。一方は女性の自由を制限してでも人口増につなげるべきだと主張する保守派でした。彼らは出産奨励金や子供手当などの経済的なインセンティブや、女性の就労制限や避妊禁止などの社会的な圧力を提案しました。もう一方は人口減少は人々の生活水準を高めるので歓迎だと主張する進歩派でした。彼らは女性の自立や教育、社会参加を支持し、出産や結婚は個人の自由な選択であるべきだと主張しました。
スウェーデンの針路を変えたグンナー・ミュルダール
このような対立の中で、スウェーデンの針路を変えたのがノーベル経済学賞受賞者でもあるグンナー・ミュルダールでした。彼は1934年に妻と共著した「人口問題の危機」という本で、人口減少は個人の責任ではなく社会構造の問題であると指摘しました。彼は出生率低下の原因として、都市化や産業化による伝統的な家族形態や価値観の崩壊、女性の社会進出と男性の家庭進出の不均衡、子育て費用や時間的負担の増加などを挙げました。そして、これらの問題に対処するためには、政府が介入して社会制度や経済政策を改革しなければならないと主張しました。
ミュルダールの主張は大きな反響を呼び、政府は人口問題の委員会を立ち上げて、ミュルダールも参加しました。1938年までに17の報告書を作成し、その中で提案された女性や子育て世帯の支援法が相次いで成立しました。その中には、妊娠中や出産後の女性に給付金を支給する法律や、子供が8歳になるまで両親が合計480日の有給育児休暇を取得できる法律、子供の数に応じて子供手当を支給する法律、公的な保育所や学校給食などの充実などが含まれていました。これらの法律は、スウェーデンモデルと呼ばれる社会保障制度の基礎となりました。
高福祉国家の成果と課題
スウェーデンの人口政策は、出生率の回復に成功しました。1940年代から1960年代にかけてはベビーブームが起こり、出生率は2.5以上に上昇しました。1970年代以降は出生率は低下傾向にありますが、2.0前後で安定しています。スウェーデンは少子化に対応する先進的な社会保障制度や家族政策を築き上げることに成功したといえます。
しかし、スウェーデンの高福祉国家にも課題はあります。 一つは高い税負担です。スウェーデンでは所得税や消費税などの税率が高く、国民の平均税負担率は約45%です。これは日本の約30%よりもかなり高い水準です。高い税負担は国民の所得や消費を抑える可能性があります。また、高い福祉水準は国民の働く意欲や自助努力を減らす可能性もあります。実際、スウェーデンでは失業率や不就労率が高く、労働市場への参加率が低いという問題が指摘されています。
もう一つは移民問題です。スウェーデンでは人口増加を維持するために移民受け入れを積極的に行っています。特に近年は中東やアフリカからの難民や亡命者が増えています。2015年には16万人以上の移民がスウェーデンに入国しました。これは人口比で見ると世界最高レベルです。移民受け入れは多様性や国際協力の観点から評価される一方で、社会的なコストや摩擦も生じています。移民は言語や文化の壁から就労や教育に困難を抱えることが多く、失業率や貧困率が高くなっています。また、移民と先住民との間に差別や偏見、犯罪やテロなどの問題も発生しています。
日本がスウェーデンから学ぶこと
日本はスウェーデンのように、人口減少や少子化に対応するために、社会保障制度や家族政策を改革する必要があるという意見です 。スウェーデンは女性や子育て世帯の支援を充実させることで、出生率の回復や女性の社会参加を促進しました 。日本も同様に、育児休暇や子供手当などの給付制度や、保育所や学校給食などのサービス制度を拡充することで、子育ての負担を軽減し、出産や就労の選択肢を広げることができると考えられます 。
日本はスウェーデンのように、人生100年時代に対応するために、医療技術や教育制度を進化させる必要があるという意見です 。スウェーデンは高齢者も健康で活躍できる社会を目指しており、医療技術の発展や生涯学習の推進などの取り組みを行っています 。日本も同様に、高齢者の健康寿命を延ばすことや、再教育や再就職などの機会を提供することで、高齢者の能力や経験を活かすことができると考えられます 。
日本はスウェーデンのように、人口増加を維持するために、移民受け入れを積極的に行う必要があるという意見です 。スウェーデンは多様性や国際協力の観点から移民受け入れを行っており、移民は国の人口や経済に貢献しています 。日本も同様に、移民受け入れを拡大することで、人口減少や労働力不足などの問題に対処することができると考えられます 。
まとめ
以上の見解から、日本がスウェーデンから学ぶことは多いことが分かります。しかし、スウェーデンのモデルをそのまま真似するのではなく、日本独自の文化や歴史や現状に合わせて適切に改革することが重要だと思います。現在の日本は、少子高齢化が急激に進んでおり、2022年の出生数が約77万人であり、2023年の出生数予測は約74万人と予想されてます。対して、2025年問題が迫っており、65歳以上の高齢者人口は30%を上回ると言われています。今こそ政府や国民が一体となって、先進的な政策を議論し、実行することが必要だと感じます。
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